とっぴぃ「豊島の選択」最新号(118号)が発刊されました。

118号特集
シリーズとしま共創トークvol.5女性によるプロジェクトチーム〝すずらんスマイルプロジェクト〟
高際みゆきさん(豊島区副区長)&
中島かおりさん(NPO法人ピッコラーレ代表理事)です。

来年は豊島区制90周年『街で育つ、街が育つ』
とっぴぃ・豊島の選択 発行人 小林俊史

好評連載陣は
・みんたんの選択
 図書館活用から生きる力を養う〜調べる学習コンクールinとしま byみんたん

・池袋疾走日記 第34回 2021.12 
 古市コータローさん

・We can do it! Toshima!
 『コロナ禍をどう過ごしてる?』と東京にいる外国人の友達に聞いてみました。
 村瀬 愛さん

・街のこころ 大塚ものがたり⑪「明治女学校」という輝き の巻
 城所信英さん

・豊島区の文化的遺産としての「新教育」運動 第十回  城西学園中学校(下) 
   東谷仁さん

・大切なことはすべて時代劇から教わった 最終章・その1話 「時代劇コラムは永遠に」
 大橋英晴さん

・雑司ヶ谷物語 第43回
 起伏にとんだ土地に水を湛えて流れた弦巻川

など

第3特集は
令和3年第四回区議会定例会招集あいさつ
他にも地域の情報盛り沢山でお届け中です!
年末年始のお休みにじっくり読んでいただく充実の一冊となっております!

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特集は以下から読めます。

特集:女性によるプロジェクトチーム〝すずらんスマイルプロジェクト〟


高際みゆき(豊島区副区長)&
中島かおり(NPO法人ピッコラーレ代表理事)

中島:NPO法人ピッコラーレの中島です。ピッコラーレのピコはハワイ語で「おへそ」。誰でも身体の真ん中にある大切な場所、そしてコッコラーレはイタリア語で「寄り添う」という意味です。その二つの言葉をくっつけています。私たちは「にんしん」をきっかけに、誰もが孤立することなく、自由に幸せに生きることができる社会の実現を目指しています。以前は「にんしんSOS東京」という団体名でした。
私は、実家の近くで子育てをしたいと考え、数年前まではこの豊島区で暮らし、働きながらの子育てをしました。初めは研究職として働き、その後もう一度大学に入り直して資格を取りました。そんな中で高松小学校のPTA役員を一緒にしたママ仲間と地域の古民家で「ながおかさんち」というママサロンを開いていたこともあります。今は長崎健康相談所の赤ちゃん訪問も時々しています。
誰でも、妊娠をすると身体も心も大きく変わり、仕事や生活でもいろいろな変化を余儀なくされます。生むにしても生まないにしても、いずれも期限のあることなので、ずっと抱えたままではいられず、人にSOSを出しやすい時期だと思います。ですので、その妊娠がどんなものであったとしても、そのSOSによって孤立している人が誰かとつながるきっかけになるかもしれない。その人が自由で幸せになるきっかけになるかもしれない。そんな思いがあります。
新生児がコインロッカーやトイレで見つかったというニュースを聞いたことがあると思います。そのような生まれたその日になくなる命は虐待死とされています。その子のお母さんは、誰にも言えないままたった一人で出産してどれだけ心細く孤独だったのでしょうか。日本では妊娠した方の6.5人に1人が中絶し、周産期の死亡原因の1位は自殺であるというデータがあります。孤立した妊婦の存在を知り、なんとか妊娠で葛藤する女性と早い段階からつながることができないだろうか、そんな思いから私たちの活動はスタートしています。今は、にんしんSOS東京での相談だけでなく、若年妊婦のための居場所の運営や、ジャンプへの出張保健室、研修、調査、政策提言などを50人ほどのメンバーがリモートを含めて活動しています。

高際:私は昨年の4月から、ちょうどコロナ緊急事態宣言の始まりとともに当職に就きました。ですので、お祭りもイベントも無しの時期に来てしまい、豊島区の普段の活気を楽しめずにいて残念です。そんな中、この間、私が豊島区で特に力を入れている施策の一つが、今、中島さんがお話になった若年女性への支援です。豊島区は「子どもと女性にやさしい街」を区政の柱の一つにして、子どもや子育て世帯への施策を充実させてきているのですが、一方で児童福祉法の支援対象から外れる18歳以上の若年女性については、調べてみると区役所の窓口に思ったほど相談が来ていないのです。20歳前後は気持ちが揺れ動く年頃でもあり、コロナ禍のなかで危険な状況に陥る可能性が高いという深刻さも伝えられているにもかかわらず、子どもへの支援、子育てへの支援、その両方からこぼれ落ちている世代があるのではないか、さらに、そうした彼女たちは、行政を相談相手とは考えていないのではないか、そんな危機感を持ちました。
そこで、今年1月に庁内の女性管理職メンバーで立ち上げたのが『すずらんスマイルプロジェクト』です。「若い世代の女性のおかれた状況に目を向け、実効性ある対策に結び付ける」ことを目的に様々な課が参加する横断的なチームになっています。 開始翌月から行ったのは、「若い世代の彼女たちはどこに、どんな風にいるのか、どんな支援を必要としているのか」私たち行政がわかっていないことを、実際に相談を受けている方々に教えてもらおう、という思いで企画したのが、中島さんたちのNPOをはじめとする民間支援団体の方との意見交換会でした。この意見交換会では、生理用品を買えない困窮した人もいる、無償でお渡しすることもある、と聞いて驚きました。そこでさっそく、3月に防災危機管理課の防災備蓄品で入替時期の迫った生理用品を区役所の相談窓口等で配ってみたところ、すぐに配布終了となるほど大きな反響がありました。これは日本で初めての試みで、今も民間企業と連携して女子トイレの個室などで無料配布を続けています。
その後は、若年女性に向けた相談窓口案内の広報などに取り組んでいます。9月からはピッコラーレにお願いしてサンシャインシティ1階のカフェで出張相談会「ぴこカフェ」を開くことができました。

〇どこまで聞いていいのかという問い
中島:すずらんスマイルプロジェクトの会議では、区役所のさまざまな課の方から本音や課題が聞けて良かったです。特に印象的だったのは区の職員の方からの「自分の課の担当でない問い合わせにどう対応するのがいいのか」「担当課に早くつなぐべきなのか」という質問でした。

高際:若い職員は真剣な表情で質問していましたね。行政側は常に「たらいまわし」というご批判が出ることを意識してしまうからだと思います。いろいろお話を聞いた挙句に、〝担当は別の課になります。〟では、ご相談者は、〝もう一度最初からお話ししなければいけないのですか(怒)〟という流れになってしまう。でも、相談内容はきちんと聞かなければという思いもある。そんなジレンマが悩みなのでしょう。

中島:解決するための適切な課への紹介が、実はたらいまわしのように見えてしまう。相談を受ける側の行政の方のモヤモヤを知ることができました。相談者がどんな思いで勇気を出して最初の一歩を踏み出しているか、もう二度と相談してこないかもしれない。よく相談をしてくれましたね、ありがとう、あなたの気持ちをまずは聞かせてくださいね、という意識を持って聞いています。話しながら段々と困りごとが整理され、相談者の気持ちも和らぎ、最初に思ったつなぎ先が変わることもあります。だから「まずは話を聞いてください」とお答えしました。

高際:職員にとっては、民間の専門の方から「それでいいんですよ」と言われること自体が大きな自信につながるのだと思います。相談窓口案内のパンフレットを作る際にも、行政用語はいちいち言葉が固い。精神保健相談とか子ども家庭女性相談とか、そんな表現じゃ若い人は見向きもしません。若い人の気持ちに寄り添うような柔らかい表現になるよう、若手職員に担当してもらっています。「すずらんスマイルプロジェクト」は6月に庁内公募して今は17部署25人にもなっているんですよ。

〇豊島区は頼りになる人が多い
中島:「たらいまわし」を気にされているお話がありましたが、「すずらんスマイルプロジェクト」が17部署のメンバーから構成されていることに希望を感じます。ある区議の方からの依頼で、妊娠した10代の女の子とつながり、一緒に豊島区役所に行ったことがあります。そのときに窓口で話を聞いてくれた女性相談員の方が、保育課の方や住宅課、CSWの方へと部署を超えて必要なサポートにつないで下さり、その母子の周りにいくつかの頼り先が生まれたことがありました。社会福祉協議会の冊子も役立ちました。頼りたい人どこかにいないかなと探すと見つかるんです。豊島区は人と人をつなごうとアクションし、応援してくれる人が多いと感じます。

〇早い解決より信頼する関係になること

中島:今やっている「ぴこカフェ」では『占い』ができる日があります。占ってもらったことを、誰かに聞いてもらいたくなって、そのお喋りがいつのまにか相談になることも。誰でもそうですけど、自分が〝困っている〟ことを他人に話すのは、とてもハードルの高いことですよね。自分が他人と〝違う〟、その〝違い〟がマイノリティであることに気づいて、孤独を感じてしまう。「困っている」と誰かに言うのには大きな葛藤を伴うことなのです。こんなことを話したらどう思われるだろう、恥ずかしい、という恐れのようなものをみんな抱きながら、相談のハードルを超えてきてくれて今目の前にいる。現場で私たちも日々教わっています。
セクシュアルリプロダクティブ・ヘルス/ライツ『性と生殖に関する健康・権利』という概念は、すべての人に関わる大事なことだと考えています。これは簡単に言うと「自分の身体のことは自分で決める」権利だと捉えていますが、実際には思うようにいかない状況にもなります。私たちは、解決するべき問題と対策を捉えがちですが、実はそこにあるのは問題ではなくて、その人の人生。そのひとりひとりの人生をそっと支えて伴走するようなものが「支援」ではないでしょうか。それは「誰も取り残さない」というSDGsの達成のためにも大切なことだと思います。

高際:私たちも、困っている方とつながることは本当に難しいことだと感じています。SDGsを掲げて「だれひとり取り残さない」と気張っても、その人につながらなければ、助けることができない。でも、中島さんが仰る「私たちだってつながるのは難しいんですよ」という現場の生の声を聞けて、気張らずにいこうと考えることができました。ホームページも窓口の説明文だけでなく、相談室の写真や相談員のメッセージをつけるなど、丁寧にお伝えして、こんな応援をしたいんだというこちら側の気持ちを発信することが大事だと思います。

〇共感と信頼の輪
中島:「すずらんスマイルプロジェクト」は、行政の方と民間が互いの強みと弱みを知り合い、共感の輪をつくりながら、つながっていくところが良いですよね。 今、私たちは、豊島区内で住宅課の空き家利活用の施策を使って、若年妊婦のための居場所「ぴさら」を運営しています。いつでも戻ってくることができる実家のようなアットホームな場所でありたいと思っています。
行政のサービスが使えた経験は自信になって、孤立の気持ちを和らげていく。「ここにいていいんだ」と社会の中に居場所があると思える、そんな実感があります。

高際:悩みを抱える当事者の方は支援者とつながり、行政とつながり、社会につながる。その支援者の方々につなぐ先の行政の窓口が安心できると信頼していただける。この共感と信頼の輪の関係を大切にしたいと思います。中島さんの今日のお話からそれが豊島区の力だと感じることができました。ありがとうございました。

中島:誰もがいつでもふっと訪れることができ、信頼できる誰かとつながることができる、「すずらんスマイルハウス」や「すずらんスマイルカフェ」を作って、そこを複数のNPOが区と協働して運営するなんてどうでしょうか。「すずらんスマイルプロジェクト」の今後に期待しています。こちらこそ、ありがとうございました。

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2021年12月6日
㈱サンシャインシティ共創空間にて
◎としま共創トークは㈱サンシャインシティと「とっぴぃ」の共同企画です。豊島区のまちづくりの好循環をゲストの方の対談によって模索していきます。

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