最新号50号が発刊されました

50号特集
通算50号 感謝を込めて
名編集者 粕谷一希さんが豊島区に残したもの

消滅可能性都市から女性が住みやすい街としまへ!
(みんたん)

まちづくり最前線
「粕谷一希さんの思い出」

先進まちづくり事例
〝社会的インパクト〟と〝波及効果〟を最大化するための対話の舞台
(豊島区図書館専門研究員 水谷千尋さん)

公益社団法人 豊島区医師会
日本の現実に危機感を!

8月は大塚で盛り上がろう!
伝統と新規のイベント2つ

特集
通算50号 感謝を込めて
名編集者 粕谷一希さんが豊島区に残したもの

5月30日、粕谷一希さんが逝去されました。誰もが認める名編集者であり優れた評論家であり、多くの作家と自らの著作を世に示された粕谷さんは、生涯を通じて豊島区雑司が谷を愛し住み続けた「豊島区民」でもありました。
高野之夫豊島区長の要請で豊島区の図書館行政をはじめ文化政策をこれまで牽引された粕谷さんが最初に始めたのは「文化によるまちづくり」の運動でした。
10年余にわたるこの運動から生まれた豊島区内のまちづくり活動は数知れません。
その影響は大きく、豊島区は「文化芸術創造都市」として認められるようになりました。
縁あって粕谷さんの「文化によるまちづくり」に寄り添わせていただいた私が、その後、粕谷先生にアドバイスを請うて創刊した本誌は、今号で通算50号を迎えました。感謝を込めて、粕谷一希さんが豊島区に残したものを考えたいと思います。
(本誌発行人 小林俊史)

始まりは(仮)『池袋副都心
再生協議会』構想の相談から

初めてお会いしたのは、平成13年の春でした。サンシャインシティが開業して以降、副都心の中で動きの少なかった池袋の将来の都市構想について池袋の東口も西口も横断的に考える地元の協議会を活発化するためのご相談が目的でした。
当時、若手による活動を模索していた私は「池袋21世紀会議」なる勉強会を立ち上げる準備中で、池袋の各団体の方々にお会いしながら現状意見をヒアリングしていた時期でした。その際に1986年の「池袋ルネサンス構想」の策定に尽力された建築家の宇田川達生さんから「これからの都市像を構想するなら、都市計画の専門家ではなく文化に明るい方をトップにするのがいいのではないか、雑司ヶ谷には、『東京人』を発行している粕谷一希さんがお住まいになっている」とのアドバイスをいただいたのです。
さっそく、高野区長にそのことを報告すると、それは良い意見だ、すぐに会いに行って相談しようと急遽、訪問することになりました。
お会いした粕谷さんは、まさに本に囲まれたお部屋に泰然としていらっしゃいました。高野区長のまちづくりにかける熱い思いや、やや若気の至り的な私の発想などをしばらく聞いた後、粕谷さんは、「まずは地域の文化についてよく調べることから始めたらどうだろうか。地域に根付いた文化には背景がある。その背景を知ることが大切だ。協議会などというかしこまった会ではなく、サロンのような座談会を定期的にやってみよう」と提案されました。
「ふるさと豊島を想う会」の始まりでした。

「文化によるまちづくり」を
支える「編集的まちづくりとは」

この「想う会」については、既刊の溝口禎三氏著書『文化によるまちづくりで財政赤字が消えた』が詳述しているので、ご参照いただきたいと思います。
この定期的な座談会は、毎回講師と話題を変え、興味深い活動について制約なく語り合うものでした。以降10年間に50回以上の開催を重ねましたが、これを主宰する粕谷さんの視点は一貫して「人」にありました。
興味深い活動を街で実践する方々とともに、時に地域の歴史や背景について語り、また関係する本の紹介や社会評など雑談をしているうちに、まちづくりの良いヒントがどんどん溢れてくるようで、参加するたび勇気が湧いてくるようでした。
「優れた編集者は、時代の思想的文脈をつくる。これぞ、という書き手を探し当て、その書き手が思いもしなかった、しかしのちになれば、それを書くのが運命だったように思えるテーマをぶつけてみる。気づいてみれば、そのようにして書かれた文書の数々が時代の精神的な骨格となっている、まさに時代を生み出した編集者であった。」これは政治学者の宇野重規さんが読売新聞に書かれた書評の一部ですが、豊島区スケールでも、そのことは確実に起っていました。
粕谷さんは「編集とは筆者とテーマの選択的構成である」という言葉を残しています。
それぞれのフィールドで夢を追い活動する人たちと接し、豊富な知識のなかから、その活動に「大義」のある根拠を示し、「地霊」なる応援があることを教え、「激励」の言葉をかけ、仲間と「友情」を育むように促し、そして「勇気」を与えてくれました。
都市の将来像を築くことを相談した私たちに出した粕谷さんの答えは、まさにこの「文化によるまちづくり運動」を支える「編集的まちづくり手法」のことだったのです。

図書館と活字文化の
未来にかける思い

粕谷さんが自ら先頭で行動されたのは、「図書館運動」です。ここでは豊島区立中央図書館ができる前に「図書館運動について」粕谷さんが講演された一部をご紹介します。
「私は図書館といわずに「図書館運動」といっています。建物を新たにするだけではなく図書館そのものを変えていかなければならないというのが「図書館運動」と呼びたい理由です。それは、図書館というものが単に本のサービスをするということではなくて、この図書館に通うことで、本当の読書人、愛書家を作り出す、生み出す、そういうものでなくてはならないと思うからです。(中略)
本当の読書というものは、本当の知己、本当の友達に出会うことだと思うのです。古今東西、生きている人だけではなく死んだ人でも、その書物に出会うことで友人になることができる。いい本に出会うということは、その人間を変えることになる。5冊でも10冊でも、そういう本に出会った人間はまったく違う人種になってゆく。(中略)
そのためには、東京中のおもしろい才能のある人々、あるいは日本中からおもしろい、すぐれた人々がやってくるような、他に例のないほどいろいろな人の往来する図書館を目指したい。その人を通して豊島区のいろいろな人が様々な刺激を受けることが大切で、本当の意味でのすぐれた芸術家なり学者なりを招待したいと思っています。」
具体的には本誌8pの図書館サミットの開催について水谷千尋先生の記事に詳細を期していただいています。
この図書館サミットの実現について粕谷さんは並々ならぬ情熱を傾けていました。次ページに掲載した文章は、図書館サミットでのマニフェストの粕谷さんの第一草稿メモです。サミットでさまざまなジャンルの方々の議論を経てマニフェストは充実し、完成しました。しかしこの第一草稿から当初、粕谷さんが図書館と活字文化の未来に相当な危機感と責任感があったことを感じていただけると思います。

粕谷一希先生が残した
「編集的まちづくり」の文化

私は今、この「編集的まちづくり」の手法を粕谷さんが残した文化として大切に考えたいと思います。
選択的構成によって…つまりは出会いと交わりの面白さによって予定調和でない、特別な感情や意欲を生み出せるまちづくりの方法を尊重する文化です。
膝詰めの会話と幅広い交流、寛容さを裏付ける知識と読書による時代を超えた友情。
今は亡き粕谷先生のことを想う時、そういうことを信じられる人間でありたいと思うのです。 合掌

おすすめ書籍

「財政支出ゼロで220億円の新庁舎を建てる」
溝口禎三 著

財政支出ゼロで220億円の新庁舎を建てる

豊島区をこよなく愛する著者が前著『文化によるまちづくりで財政赤字が消えた』に引き続き書き下ろした第二弾!「豊島区に住んでいて良かった」としみじみ思える本です。

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