最新号54号が発刊されました

54号特集
ピンチはチャンス!
新たな『まちづくり運動』に対応しよう

豊島区が「劇場都市」に!?
国際アート・カルチャー都市としま(みんたん)

先進まちづくり事例
外国人旅行者に大人気の「謎」の宿
ファミリーイン西向 椎名町

今月のキラリ人
西武池袋本店 販売促進部 売出計画担当
宮谷 美智子さん

第12回 調べる学習コンクールinとしま
入賞作品が決定!

池袋学 【冬季特別講座】
「柳原白蓮の戦後~銃後の母から世界連邦運動へ~」

住みたい街から消滅可能性都市…激動の2014年
ピンチはチャンス!
新たな『まちづくり運動』に対応しよう。

今年初め、住宅情報誌の調査による『住みたい街第3位池袋』の躍進に沸いた豊島区。これまでの文化によるまちづくりと各地での区民活動の成果が表れ出したか、と喜んだのもつかの間、5月には全国的な人口減社会の到来に向かって東京で唯一の『消滅可能性都市』女性が激減する街と名指しされ、また2020年オリンピックを前にして国家戦略特区構想から外れていた副都心の巻き返し、はたまた危険ドラッグ吸飲者による悲惨な事故が起きるなど、全国的に注目される話題に事欠かなかった2014年。かつてないほど豊島区の動向をテーマにした報道が集中した。
そのなか実は、区内の街では、新たな時代の始まりと思えるムーブメントが起きている。それは30~40歳代の子育て世代、若い世代の専門家集団による「まちづくり」実践運動の台頭だ。
それは地域という縛りでなく、個人として暮らしに欲しいテーマを仲間とともに街なかで実現しようとするグループのこと。今、各地で同時発生的に立ち上がっている。
エポックメイキング的なこの2014年の新たな動きを考察する。

欲しい暮らしは作ってしまおう!子育て世代のエネルギー
11月に豊島区が主催した「まちのトレジャーハンティング@豊島区」、街なかの潜在的価値を発掘して地域の未来と豊かな暮らしを考えることを目的にしたワークショップだ。この企画に協力した㈱都電家守舎の青木純氏と嶋田洋平氏はその発表ステージでこう提案した。
「欲しい暮らしに必要なものは行政に頼るのではなく自分たちで作ってしまおう。大人たちが楽しく充実して暮らしている姿があることは子どもたちの幸せでしょう。」
この日、トレジャーハンターとして参加していた地域住人と子育てママ、そしてゲストとして招かれたいわゆる彼らの言うところの「スゴイ専門家」ら100人超はその宣言にうなずいた。
その言葉は彼ら子育て世代のまちづくりへの意欲を素直に表している。豊島区が消滅可能性都市の発表後、すぐに対策検討会として開いた「F1会議(20歳~35歳の女性)」でも、住みたい街への要望は子供たちへの愛情によるエネルギーが大きい。
それは、ここだけでなく各地域で同様に姿を表している。消滅…の話題が出る前から各地で30~40歳代が中心となって呼びかけるまちづくり運動がいくつも立ち上がっていた。前出の青木氏、嶋田氏も豊島区に協力する以前から都電沿線のまちづくりを考えるワークショップを続けていた。
本誌は今年「先進まちづくり事例」、「まちづくり最前線」のコーナーでこのいくつかの動きを各号で紹介してきた。豊島区が話題になるより以前に若い彼らはすでに動き出す準備をしていたのだ。

活性イベント型からソーシャルビジネス型へ
これまで豊島区内のまちづくり運動は、地域で育った者たちのメンバーシップによる活性イベント型がほとんどだった。これに対し、今、彼らの想定はテーマを共有する仲間と行うソーシャルビジネス型である。欲しい暮らしに必要な環境や公共財をメンバーと一緒に社会に生み出していくというマネジメントを目標にしている。その原動力は共通の願いを持つ住民同士と専門家とのコラボレーションになる。
前出の発表ステージで嶋田氏が例に挙げた今韓国で住みたい街1位のソンミサンマウル地区。「まちの起業がどんどん生まれるコミュニティ」「やりたいことを口にしたら実現してしまう街」と形容されるこの街は、最初25人の住民有志の運動から始まったことを紹介して、地域課題に対する手法の多様化を訴えた。
確かにこれまで地元のまちづくりの合意形成となれば、地主・地域商業者・地元住民の三者の融合と行政の連携こそが大きな課題と言われてきた。動き出す準備をしていた新たなセクターである彼らは地域に対しどこから始めていいのかが見えなかった。しかし、「住みたい街」に続く「消滅可能性都市」のインパクトは、その緊急対策という非常事態を契機にして、新たな原動力と行政をつなげたのだ。

職住近接と多様な働き方子育て世代の台頭は必然
これまでの地主・地域商業者・地元住民という三つのセクターも変化しつつある。
それは働き方が多様化していることと子育て世代の職種層にもよる。
かつて高度成長期の70年代の日本の都市では地元商業者や住民の子を持つ親が多くPTA活動に参加し、社会教育行政や子育て施設サービスの施策を求め、また子どものための基盤を促す運動を通して地主層から住民層へ「まちづくり」の重心が移っていった歴史がある。
子育て世代の男女を問わず、働き方も多様化し、自由な働き方が生まれ、さまざまな立場で社会に接するようになった子育て世代が「まちづくり」の重心になっていくのも時代の必然なのだろう。
彼らは今、まちの人との接点が欲しいと思っている。そのなかで「まちづくり」の提案や対話を重ねて欲しい暮らしを叶える環境の実現を生み出すことの喜びを得て、「この街から離れられない」という愛着を持つのだという。

二極化か融合か「区民ひろば」との連携が鍵
今後のまちづくりの合意形成には、四つのセクターの融合が必要になるのではないか。それは、既存のまちづくり団体、地域住民、子育て世代、専門家である。
人口減社会に向けた地域の課題は今後、年々表れてくる。。その一つ、住宅問題ではすでに区内で空家件数21860、全体の12.9%に上っている。
まちづくりを多様な手法で取り組む時代はすでに来ている。地域に愛着を持ち持続可能な都市形成に力を注ぐ次世代の人々を増やすことこそ地域の公益になることは間違いない。
アメリカで2000年初めに発行された市民社会論のベストセラー「失われた民主主義」
(シーダ・スコッチポル著)によれば、19世紀の初頭から草の根民主主義の成長を誇った米国社会が9.11以降に至る民主主義衰退を見せたのは、かつてのメンバーシップによる地域たたき上げの人材養成から専門家(エリート)によるマネジメントの融合に失敗し、二極化したことが原因であると警告している。
これから日本で起こる地域内の葛藤はこのアメリカの傾向に似たものであると関あげることもできるが、我々の日本型コミュニティ形成は世界の模範でもある。世界のモデルになれるこの地域だからこそ、離れて二極化するのではなく、実のある融合を成功させたいものである。
特に豊島区では他に負けないコミュニティ形成に取り組む「区民ひろば」がある。この「区民ひろば」の発展によってこうした住民間の新たなセクター、あるいは世代間の横断的な融合を図る拠点になり得るだろう。行政は区全体で今一層この「区民ひろば」を支え、新たなまちづくりのセクターを融合する機会を作る拠点として取り組むことを期待したい。
豊島区のまちづくりは前途洋々と、今年を締めくくり、新年を迎えたい。

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