最新号77号が発刊されました

77号特集
豊島区から秩父市への地方居住を考える

新たな地に住む夢は何か
夢を応援するしくみを考えよう!

観光の目玉になるか 池袋LRT構想
byみんたん

外国人から見た「52席の至福」レストラン列車で秩父へ 
ジェームズ・スリヤーさん

今月のキラリ人
人と人とを繋ぐ快適コミュニティー
NPOコレクティブハウジング社 狩野三枝さん

先進まちづくり事例
IT企業が地域にできることに取り組む
株式会社ゼネット 南池袋

新連載 雑司ヶ谷物語(第二回)
「藪そば」のルーツは雑司が谷に

などなど盛りだくさん
特集は以下から読めます。

特集:豊島区から秩父市への地方居住 を考える

日本版CCRC構想は成功するか
新たな地に住む夢は何か
夢を応援するしくみを考えよう!

 平成27年5月、日本創成会議(増田寛也座長)より「消滅可能性都市」と指摘されたあの衝撃の一件以後、豊島区は四つの柱で持続発展都市を目指すとした。 
 その柱に掲げた二点「地方との共生」「高齢化への対応」の具体策の一つが「日本版CCRC構想」だ。
 豊島区から秩父市へ、地方居住と交流にはどんな施策が必要か、これまで検討されてきた「地方居住を考えるワークショップ」の成果発表会が、来月12月10日に区役所で開催される。
 豊島区から秩父市への地方居住をあらためて考える。

日本版CCRC構想とは

1970年代からアメリカで広がる高齢者のまちの形態を示す「CCRC」は、「継続的なケアを受けられる高齢者の地域共同体」と言う意味。介護が必要になってから、地方の高齢者施設等に世話になるのではなく、健康なうちから移り住み、医療や介護を受けながら活動的に暮らす終の住みかのことをいう。「アクティブシニアタウン」と言い換えることもできるこの集合住宅の考え方は、入居者全てがシニアであり、健康な食事、充実したアクティビティと、趣味仲間がいるコミュニティなど理想的な共同体と言われている。
政府は昨年有識者会議で「日本版CCRC」構想をまとめ、高齢者の地方移住を促すことで首都圏の人口集中の緩和と地方の活性化を目指すものとした。ここでは日本版のCCRCを「生涯活躍のまち」と名付け、希望に応じて地方に移り住み、多世代と交流しながら健康でアクティビティな生活を送り、必要な医療・介護も受けることができる地域づくりを表すものとしている。
アメリカ版は富裕圜が特定エリア施設で生活するコミュニティのイメージだが、日本版はその地域全体で、多世代の移住、もしくは二地域居住を推進するイメージを示した。また、①地方における人口減少問題の改善 ②地域の消費需要の喚起や雇用の維持・創出③多世代との交流を通じた地域の活性化などを期待し、地方創生の柱としている。これらをもとに、自治体や企業は国からの交付金を期待し、開発に乗り出すようになっている。
※CCRC=Continuing Care Retirement Community(継続的なケアを受けられる高齢者の地域共同体)

豊島区と秩父市の移住の
イメージは

豊島区と秩父市間のCCRCのイメージは、お互いの自治体の課題が背景にある。23区の中で唯一「消滅可能性都市」と指摘を受けた豊島区は単身で生活している高齢者が多く、自宅での自立的な生活が難しくなると施設への入所希望者が増える。そこで、元気なうちから高齢者が、自然豊かな地域で働いたり趣味をいかして社会参加をしながら健康でアクティブな生活を送ってもらい、「地域包括ケアシステム」によるサービスを区内だけでなく秩父市も含めた広いエリアで提供を考えたいとするもの。一方、秩父市も元気で健康な高齢者が暮らす地域共同体の創設を構想しており、豊島区の元気な高齢者が秩父市に移り住み、定住人口の増加だけでなく、交流人口の増加、雇用の増加、消費の拡大による地域の活性化を期待している。
そのため、「豊島区・秩父市版のCCRC」では学生、子育て世代、シニア世代と幅広い層を対象にしており、また、現役世代の頃からセカンドライフについて考えいくこ環境・機会も積極的に作っていくことで、世代を限定せず、さまざまな人達の交流により「多世代コミュニティ」の環境を構築していくことを目指すとしている。
豊島区と秩父市は、西武線で約1時間半の距離で、始発地・終着地の関係にあるうえ、30年以上の姉妹都市としての交流があり、。お互いの住民にとって馴染みが深い地域でもあることから「お試し移住」や「2地域居住」など、あらゆるケースを想定して協議を進めたい考えだ。

日本版CCRCは
成功するのか

しかし、こうしたいわゆる新たな地域での居住コミュニティについては、日本ではこれまでもさまざまな事例により挑戦してきているが、成功例は少ない。
豊島区においても、何度かこのCCRC構想について取り組みの検討経過が広報に掲載されているが、取り立てて区民の話題になっていない。また、今年2月に報告書がまとめられた「定住・地方移住等に関する区民意識調査報告書でも「地方移住したい」区民が33%に上るとはあるものの、積極的な意見が出ているものではなく、実感がわかない回答になっているようだ。
日本での高齢者の新たな地域での居住コミュニティといえば、80年代後半の「シルバーコロンビア計画」の失敗も脳裏をよぎる。当時の通商産業省が退職金と年金とで老後を海外で過ごすことを提唱したものだ。
しかし、民間企業とともに海外の有名リゾート地に日本人の集まる「退職者村」をつくるという発想は、内外から批判を受け、実行されなかった。
「海外」を「日本の地方」に置き換えただけの発想では、不安の方が大きく、移住を決意する程の魅力は生まれないのが区民の本音ではなかろうか。

新たな地に住む夢は何か
夢を応援するしくみを
考えよう!

そうはいうものの、豊島区にはない魅力が秩父市には、たくさんある。池袋から西武線あるいは秩父線に乗っても近く、訪れやすい自然豊かな景観、そして広い土地とゆったりとした時間の流れは、都会にはないライフスタイルに適した絶好の地だ。その魅力は観光やレジャーに留まるものではなく、むしろその環境こそが自分の仕事に適した職住近接で過ごせる場所、あるいは人生の夢をかなえる時間を過ごす場所として選ばれるのではないか。農業や林業、芸術や研究、新産業の創出に意欲のある人など、仕事を通じて生活空間としての秩父市に新たに居住したい人が潜在的にはいるはずだ。
そのような新たな地に夢を描いて移住する人に、その夢の一歩を応援する施策は考えられないだろうか。
例えば、有機野菜の生産にチャレンジしようと豊島区から移住する人には、仕入れ先の豊島区での飲食店や販路を紹介する、製作物や新産業にチャレンジしようという人には、展示したり発表したりする場を提供する、池袋―秩父間の無料バスや電車賃の補助などもいいかもしれない。そうした夢の応援を得ながら、新たな土地の人と一緒に取り組むことなどは住みついても楽しいことではないか。
秩父のまちの歴史はとても面白い。私なら、いずれの日か、これまでの豊島区と秩父の市民の交流を一冊の本にしてみたいなんて考える。
12月10日のワークショップ成果発表会を楽しみにしたい。

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